最終章 まだ見ぬ明日の気配 夜明け前。 香織は、ふと目を覚ました。 隣のベッドでは、夏凪が静かな寝息を立てている。 薄暗い部屋の中、香織は毛布を抜け出し、素足で絨毯を踏みしめた。 そして、窓辺へ歩いていった。 カーテンを、わずかに開く。 目の前に広がる海は、まだ夜の名残を湛えた深い群青色に沈んでいた。 昨夜、二人で見つめた月の道は、もう何処にもない。 ただ、水平線の向こうだけが、かすかに白み始めている。 香織は冷たいガラスに、そっと額を寄せた。 ――東京には帰る。 心の中で、声にするように呟いてみる。 怖かった。 永井に、何を言われるのか。 何を失うのか。
第1章 檻を穿つ決意 車窓を流れていた海は、いつの間にか見えなくなっていた。 窓の向こうを過ぎていくのは、瓦屋根の連なりと、灰色の建物。 遠くに見えていた山の稜線も少しずつ低くなり、その向こうから代わるように、送電塔や高架道路が姿を現し始めている。 空だけは、今井浜と同じはずだった。 けれど。 海を失った空は、なぜか少し狭く見えた。 香織は、窓に映る自分の顔をぼんやりと見つめていた。 その隣で、夏凪は眠っている。 規則正しい寝息。 肩に落ちた短い髪が、列車の微な振動に合わせて揺れていた。 昨日。 今井浜へ向かったときには、一人だった。 行く場所もなく。 何の
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